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す。驚異的な発展を遂げるこの技術は、“本当のリアリティ”よりもっとリアルに思える視覚的幻想世界を作り出し、わたしたちの日常のリアリティを侵食し、本来ありえないことをバーチャルに“体験”させてしまうのです。その反面では、現実世界、他者との直接的・肉体的な出会いの体験が極度に減少しています。
現に、多くの若い人たちがポケベル、ケイタイ、インターネットを通した結びつきのほうが、直接出会うより、心地よく、親密な関係を結べると感じているようです。それは、スイッチやデジタル信号のようにオン・オフで、サッとつながり、パッと消えてしまう人間関係です。そこには、運命を共に担うような出会い、深く人格的な関係は期待できません。
他者との身体的出会いの拒否は、他の人が触れたものを不潔と感じ、気嫌いする傾向にも現れ、またそれに迎合した各種の“抗菌”商品が売り上げを仲ばす始末です。
それと同時に、女性誌などを見ると、ダイエットやエステ、美容整形の記事や広告が、永遠のテーマであるかのように、手をかえ品をかえ現れています。現代人が、自分の“からだ”に示す並外れた関心と、そのために投資し、努力し、時間をかけ、心配する様子は驚嘆に値します。しかし、それがどこまで健康的で、ほんとうにからだのためになっているのか、むしろからだに危害を与えはしないのか、はなはだ疑問です。
これは単に医学上の問題ではなく、自己イメージの深刻な不安がっきまとっています。つまり、いまの自分、あるいは自分のからだに自信がもてず、“より自分らしい”イメージを求めて、結局、現実の自分に背を向け、嫌悪するという矛盾に苦しむ姿です。
自分の存在の土台である身体をありのままに受容できなければ、他者の存在をありのままに受け止めることもできないでしょう。

 

 

 

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